10年に一度では、間に合わない

 教科書は、古くて良い。正確に言えば良い教科書は古くても、古い部分が学習者にも学びとなり、新しいものが学べるのである。ムサビの出版局の教科書で言えば、水尾比呂志先生の『日本造形史 用と美の意匠』。出版局の刊行は2002(平成14)年だが、その内容は以前に書かれた原稿の改版である。
 一方で、科学技術や社会動向の影響を受けるデザイン分野をはじめ、教科書の改訂を長期計画で実現する教科書は弊社でも数多い。
 そのなかでも、法律改正や制度変更の影響をダイレクトに受ける教職課程の教科書は、大変である。学校の教育内容を左右する学習指導要領は10年に1度、大改正が行われる。正確な法律用語でいえば、総入れ替えの「全部改正」がおこなわれる。念のために言うと、10年に1度、大幅に変えますとはどこでも決まってない。ずれることもあった。このほかに小さな改正、「一部改正」も時々ある。たとえば、常用漢字の変更に伴って学習指導要領の国語部分が変わったのは、一部改正である。
 
 そんなわけで、教員養成テキストは10年に1度というのが出版社の常識のようになっていたのだが、最近は早く来るケースが出た。2015(平成27)年3月の「特別の教科 道徳」の新設。これも一部改正であるが、道徳の時間が道徳科という「特別な教科」になるという話である。そうすると、早速『新版道徳教育講義』の改定が話題になる。2012(平成24)年刊行の、最近の教科書なのに。念のために言うがまだ「特別の教科 道徳」は実施前だから、いまはこの教科書でよい。

 今年の教職テキストの新版は『新しい教育相談論』。こちらは2002(平成14)年のテキストの新版。学習指導要領の改正の影響を受けにくい分野であるが、教育相談をめぐる学校の現場事情は大きく変わった。昔は学校教員は「外部」の専門家としてのカウンセラーと連携した。本書に引用された過去の文書でも「外部」となっている。しかし今では学校カウンセラーは「内部」の職員である。多くは非常勤の掛け持ちだが、むかしのように教育委員会の教育相談センターにいるのではなく、たとえば金曜日の午後に学校の相談室で生徒の相談を受けるカウンセラーの先生だ。東京では学校の職員名簿に校医と並んでカウンセラーの名前が書いてある。2015(平成27)年12月21日に中央教育審議会の答申で「チームとしての学校」が強調されると、カウンセラーも教師と一緒のチームとして位置付けられることになった。ついでにいえば、年末に中教審答申が出ると、はい、再校段階のぎりぎりで原稿を差し替え作業…。
 人間は生き物、教育も生き物の行為なんですから、新鮮さが大切。教科書の鮮度の維持はとても大変です。そんなわけで、あとしばらくで、『新しい教育相談論』の刊行です。

〔ケロT取締役〕

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