『キュレーターの極上芸術案内』ボツの話

7月上旬発売の新見隆先生『キュレーターの極上芸術案内』。

キュレーター(学芸員)がツアー・コンダクターとして

読者の皆様を10の都市へ、特別に御案内する趣向です。

「アート×フード×ミュージック×ブックス=ライフ(愛)」

という内容の、この1冊の本が完成するまでに

どれほどボツが出たことか・・・

「お時間に限りがありまして」という決まり文句は本の場合

「紙幅に限りがございまして」となる。

頁数なんて増やせばいいぢゃん、と思ってるでしょ?

いくらでも増やせますよ、でもね、四六判なら256頁!

(なぜなら最も経済的な紙どり=頁数だから)

「四六判256頁」という金科玉条を掲げなければ、

「アート&フード&ミュージック&ブックス=ライフ(愛)」

なんて膨大なお話が、ま・と・ま・る・わけがない。

結果的には、小さいけどアンコはみ出そうなどら焼き

「どっから食べる?」みたいになりました。

ニューヨーク、東京、パリ、京都、ウィーン、大分

・・・都市名を冠した中に〈どこにもない街〉という

タイトルが、初校には存在していた。。。

それは田中希代子というピアニストと、

岡崎京子の作品世界をめぐる「疾駆する神/夏の時間」に

ついての一考察で、他の節とはちょっとちがった

乾いた文体の、魅力的な一節でした。

しかし、初校を見た著者からこんなメールがきた。

「何で、アートと食が合体されて語られてるのか、

 何故、こうやって、芸術と町を結びつけるのかが実感で

 湧いてこない。」

ええっ???「すべて編集者に任せる」と豪語した著者から、

いまさらこんなメールが来るなんて、どういうこと???

「それらを、根元的に統べるのが、結局僕のルーツである、

 〈尾道〉じゃないか、と思った。」とのこと。

そう、初校に〈尾道〉はない。あえて入れなかったのだ。

うーん、しかしどうしても〈尾道〉をいれるなら仕方ない、

泣く泣く〈どこにもない街〉がボツとなった次第。

(なにしろ絶対「四六判256頁」なのだから)

1冊の本ができるまでには、その後ろに「惜しい」

と言いつつ収録されない文章が、じつはたくさんある。

「極上芸術案内」は、日本編と海外編の二分冊に

しようかと本気で考えたくらいだから。

馬面さんの装幀案も、こ〜んなヴァリエーションから

たった1点が選ばれて世に出るのでした。

[編集:ハムコ]

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