きれいで涼しい話のお知らせ

MAUPの活動とは直接関係ないのですが、
能狂言の各流あるいは家が所蔵する選りすぐりの面を用いて名曲に挑むという企画「伝統の能面 狂言面」が横浜能楽堂で開催中。
8月21日の第3回は〈節木増〉による「熊野 ゆや」と、〈うそぶき〉による舞狂言「蝉」でした。

〈節木増〉は「増女」と呼ばれる系統の面で、鼻の付け根に木の節による陰影があり名品と言われます。小面よりも年増の女性を表し、その臈長けた造形に惚れ込む人も多いのです。
今岡謙太郎 著『日本古典芸能史』89ページに「増女」の写真が載ってますので、ぜひご覧ください。

室町時代から江戸時代にかけて打たれた面を「本面」、それ以降に制作された面を「うつし」と言い、「本面」はよほどのことがない限り舞台で使われることがありません
演者(シテ)の力量と舞台上の陰影によって(観る側の思い入れも当然ある)能面には様々な表情が生まれるのですが、完成された面でありながらとても生々しいという、凄みのある造形美を堪能してきました。

舞狂言「蝉」は、夏に命を終えた蝉の亡霊が僧の前に現れて生前の、また死後の苦悩を滔々と述べるという、能になぞらえた作りで、上演の機会はとても珍しい。
もちろん狂言らしい道化と滑稽の要素はさりげなく潜んでいるものの、「とまって鳴く木が剣の刃となって」と、蝉が死後の苦しみを伝える場面では、〈うそぶき〉の面があどけない子どものようで、それが蝉の無垢なイメージに転化して、なんとも切ない思いがしました。

いずれも「本面の造形さすが」と堪能する企画でした。第4回は9月24日で、能「藤戸」では「死者の面を剥ぎ取ったような」と言われた(らしい)〈蛙〉の面が使われます。

編集:t:eeh

コメント