『ドームがたり』から『現代アート10講』まで

アーサー・ビナード作、スズキコージ画
『ドームがたり』は玉川大学出版部から刊行された
ばかりの絵本だ。
主人公「ぼく」は、広島の原爆ドーム。
チェコ人の建築家によって1915年に竣工した「ぼく」
こと広島県物産陳列館は、じつにハイカラな建物で、
当初は美術館・博物館のような役割も果たしていた。
たいへんな賑わいで、「ぼく」の口調も得意気だ。
しかし戦争が激化すると官公庁の事務所となり、
ついには1945年の閃光によって廃墟と化す。
「ぼく」は痛みと、悲しみと、無念を語りつづける。
やがてスズメや、アオサギや、ミミズが
また少しずつ「ぼく」に寄り添うようになる。
そういうお話だ。

「ぼく」は、どうして死ななかったの?
みんな死んじゃったのに、どうして「ぼく」は
ずっとお話ができるの? どうして?
おチビに聞かれたら、どうしよう・・・

「ぼく」は、ひとりではないの。ひとりみたいに
聞こえるけど、たくさんの人の小さな小さな声を
「ぼく」がひろい集めて、みんなに聞こえるように
お話ししてくれているんじゃないかしら。
「ふーん」不満そうな、わかったような顔をしたまま、
どうかそのまま大人になっておくれ。

『現代アート10講』の8番目は、岡山理香先生の
「現代建築を語るために モダニズムと5つの建築を
めぐって」
バウハウス校舎を筆頭に、5つめの「記憶の器」に
原爆ドームが登場する。

この写真と、あの「ぼく」が、同一人物であることを
ここで思い出しておくれ、おチビさん。
不満そうな顔をしたことをどうか忘れないでいて。
[編集:ハムコ]

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