昭和回想

4月30日、讀賣新聞の文化欄「記者が選ぶ」
『現代アート10講』が取り上げられ、
ゴキゲンなスタートをきったゴールデンウィーク。
にもかかわらず、かわらぬ日々のハムコ。
いつもとちがったのは、三鷹駅から玉川上水駅まで
玉川上水吟行をしたくらいか。
18キロ歩き、5人で乾杯したビールのうまかったこと!
  鯉のぼり玉川上水さかのぼる
  緑ゆくトポロジカルな友ふたり

もひとつ、いつもと違ったことをあげるなら、
荻窪のT古書店。
いつものごとく老婦人に「いらっしゃいませ」
と静かなアルトで迎えられた。
気まぐれに荷風の『裸躰』を引っ張り出してみると
組版があまりに端正なので驚き、ページを繰っていたら、
  いつからともなくわたくしは甘寝(かんしん)の樂を
  知らぬ身となつてゐる。
という一文が目にとびこんできた。
そ、そーなんですよ、荷風センセイ、あたしもまったく
おなじ、おなじおなじです!と思った瞬間、
店の奥から主人が登場。
するとアルト夫人、いきなり超ソプラノで話し出した。
「〇〇さんって、おもしろいかたね、さっきみえたのよ、
でね、ここの飴をさしあげたらね、そしたら、明日も
2時頃にこようかな、なんて仰るのよ、おもしろいわね、
あの方、ほんとに」

いつもの低音は、どこいった?
呆気にとられたハムコと目があった主人は、そそくさと
また奥へひっこんでしまった。
よほどビックリした顔をしていたのだろうが、こんなにも
嬉々として夫に話しかける古女房(失礼!)がいるとは。
いや、もしかしたら主人は退院したばかりで、
店にひょっこり顔をだす夫が妻にはことのほか嬉しいのか。
いやいや、主人は健康そのものの血色だったではないか。
御夫婦ではなく、恋人同士なのかしらん。
飛びかう憶測、邪推、妄想。
キツネにつままれたようなまま、昭和29年、中央公論社刊
「印刷者 山田一雄」の『裸躰』千円也を購入。
帰路はもちろん荻窪キムチ。あれこれ買い込んで帰宅。

ぽりぽりキムチ各種をつまみながら、ハッと気づいた。
アルト転じてソプラノ夫人のあの声、あのテンポ、
「肝っ玉かあさん」の長山藍子だ!
お若い方には通じなかろうが、1968-72年に放映された
石井ふく子プロデュースのテレビドラマ。
最近、70年代のドラマが次々とBSで放送され、
その台詞まわしと声のトーンが、今のドラマとは
あまりにもちがうので、思わず見入ってしまうのだが、
ここ数十年で女性の声は低くなったのではないか
・・・昭和にひたる連休でした。
[編集:ハムコ]

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