『博物館資料の臨床保存学』

気がつけば11月も今日を含めてあと3日。
来春刊行予定の教科書制作も、いよいよ待ったなしの時期に突入です。

担当している一冊が『博物館資料の臨床保存学』。
著者は東京国立博物館の保存修復課長・神庭信幸先生です。
数多くの国宝や重要文化財を含む国内最大級の収蔵品を相手に、日々その修復と保存に、先頭に立って取り組まれています。その他にも、東日本大震災で被災した東北の文化財資料のレスキュー活動に継続的に携わっておられたり、国内外の学会に出席されたり、博物館の活動を世に知ってもらうためとテレビや雑誌に登場されたりと、いつも本当にお忙しそう。
そんな中、執筆してくださったのが本書。キーワードは「臨床」。
まさに患者に寄り添う病院スタッフのように、過去の修理の内容なども含め文化財資料の今の状態をよく把握した上で最善の策を施していくという、当たり前のようで実は当たり前ではなかった、東京国立博物館が提唱する文化財保存についての考え方を表す言葉です。
ひと昔前はとにかく元の姿に近づけることが保存修復の基本的な姿勢だったようですが、臨床保存のアプローチでは、経年の表情はそのままにそれ以上劣化が進まないようにして、いかに安定した状態を持続させるかをまず考えるのだそうです。
闇雲に繕ったり、色を塗ったりしないということ。場合によっては、将来開発されるであろう新たな技術に託す、つまり保存環境をよく保つ以外何もしないという判断を下すこともあるのだとか。なるほどです。

学芸員課程で学ぶための教科書ではありますが、学生でなくとも興味をひかれる内容がたくさん詰まっています。読んだ後には、博物館などで文化財を見る眼が変わるかも。
是非、ご期待ください。

(編集:凹山人)

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